今回は、造血器腫瘍において治療開始までに必要となる検査について簡単にまとめていきたいと思います。傍大学の卒業試験問題を利用して、少しでもイメージがしやすいように工夫しました。それでは始めていきましょう。
造血器腫瘍の診療の流れを簡単に説明しますと、①診断(病期)→ ②予後の予測(スコア)→ ③治療 → ④治療効果判定、に大別されると思います。①や②の診断・病期の決定、予後予測に関しては、各種診断基準や評価指標が存在しています。ガイドライン等を参照しましょう。①と②で得られた情報をもとに、③の治療を決定していきます。その後、治療によって定められている適切な時期に④の治療効果判定を行なっていきます。その後、治療継続か経過観察かなどの治療方針の決定を再度行なっていくのが一般的です。
また、③の治療に入るまでに、どのような検査がさらに必要となるかをまとめていきます。診断後、そもそもの治療実施の有無や治療方針の決定のために患者の全身状態の評価(年齢、合併症、認知機能、生活背景、ADLなど)を行います。客観的な指標として、全身状態を把握するための評価指標もたくさん存在しています。次に、治療を行う場合に、各種臓器能(特に、肝・腎・心)を評価していき、抗がん剤の種類(レジメン)や投与量の決定していきます。使用する抗がん剤が決定した後は、治療に関連する副作用対策(リスク評価や予防など)を行なってから治療に入ります。
傍大学の卒業試験で以下のような問題(一部改変)が出題されていました。イメージをつけるためにもぜひ一緒に考えてみてください。
高齢、総蛋白高値、貧血、M-bow形成から多発性骨髄腫が疑われる問題ですね。正解となる必要性の低くなるような検査は、選択肢cの皮膚生検です。
多発性骨髄腫では、形質細胞の単クローン性(腫瘍性)増殖と、その産物のM蛋白(免疫グロブリンのゴミのようなもの)の増加によって、様々な症状(貧血、腎障害、骨病変、免疫不全など)を呈する疾患でした。
多発性骨髄腫は、骨髄検査(骨髄穿刺)による増殖した異型形質細胞の確認と血清・尿検査によるM蛋白の検出により診断されます。
しかし、多発性骨髄腫は根治を望むことができないため、治療対象となるのは、骨髄中の形質細胞増殖(10%≧)に加え、CRABと称される臓器障害(C:高カルシウム血症、R:腎不全、A:貧血、B:骨病変)をきたすようになった症候性多発性骨髄腫です。
また、SLiM(骨髄中形質細胞≧60%、血清遊離軽鎖比≧100、またはMRIで2カ所以上の5mmを超える巣状病変あり)を有する場合も、高率で症候性多発性骨髄腫に移行するため、治療適応となりました(IMWG規準, 2015)。
さて、今回の問題ですが、まず、多発性骨髄腫の診断を行うために、骨髄検査(骨髄穿刺)は必要となってきます。
また、血液検査や画像検査を利用してCRAB症状があるか(治療適応であるか)を判断していきましょう。X線画像所見としては、溶骨性の骨変化、特に頭部X線画像所見における骨打抜き像(punched-out lesion)が有名です。
予後の予測には、血清β2ミクログロブリン値とアルブミン値を用いたISS(International Staging System)や、血清β2ミクログロブリン値とアルブミン値に加えて、高リスク染色体異常の有無と増殖能を反映する血清LDH値を追加したR-ISS(Revised-ISS)が有名です。染色体異常の情報を得るために、やはり骨髄検査は必要ですね。
情報が少ないですが、本文では貧血がみられており、おそらくは治療適応の症候性多発性骨髄腫であると推測できます。治療を開始する前に、全身状態の評価、各種臓器能の評価、副作用対策を行なっていきましょう。
本症例の患者は76歳で発作性心房細動を合併しているため、さすがに造血幹細胞移植は用いないと思います(65歳以下で推奨)。高齢で発作性心房細動を合併しておりますので、心臓超音波検査を用いた心機能の評価が必要になります。
また、多発性骨髄腫の支持治療として、デノスマブ(抗RANKL抗体)やビスホスホネート製剤を併用することで、骨痛や病的骨折などが減少するだけではなく、生存期間の延長効果も報告されています。そのため、顎骨壊死の副作用対策として歯科口腔外科を受診させ、う歯の治療や抜歯などの口腔衛生管理を行なっていただきます。
以上、傍大学の卒業試験問題を利用して、造血器腫瘍において治療開始までに必要となる検査についてまとめてみました。私が経験を積ませていただく過程で、より良い内容に適宜アップデートしていこうと思っています。最後までお読みになっていただきありがとうございました。
<参考>
・日本血液学会. 造血器腫瘍診療ガイドライン. 2018年版補訂版.
・渡邊純一. 血液内科 ただいま回診中. 第一版. 中外医学社.
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