今回は、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療と緊急時の対応をまとめていきます。緊急時の対応につきましては、傍大学の卒業試験問題を利用してイメージがつきやすいようにまとめました。それでははじめていきましょう。
ITPを簡単に復習しますと、以前は特発性血小板減少性紫斑病と呼ばれていましたが、免疫性血小板減少性紫斑病の名の通り、主に抗血小板抗体による免疫学的機序が発症に関与しています。ほんの少し詳しく説明しますと、抗血小板抗体により血小板が脾臓で破壊されたり、血小板を産生する巨核球が障害されたりします。これらの結果、血小板数が減少して出血傾向をきたしてしまいます。出血傾向につきましては、以下の記事を参考にしてください。
ITPは急性型と慢性型に大別され、小児ではウイルス感染や予防接種などを契機に発症する急性型が多く、成人ではピロリ菌(H.pylor)感染との関連が指摘されている慢性型が多いとされています。
血小板減少をきたしますので、その症状は、皮下や粘膜下における点状出血から始まり、重症になると消化管出血や頭蓋内出血をきたし致死的となり得ます。
ITPの診断は除外診断が基本となります。末梢血における血小板単独の低下(出血によるHbの低下はみられる)、出血時間の延長(PT・APTTは正常)、網状血小板比率(RP%)の増加、血漿トロンボポエチン濃度の増加がみられない(再生不良性貧血などの造血不全では著増)、血小板結合抗体(PAIgG)の検出、骨髄における巨核球の増加や成熟障害がみられることなどが有名です。
さて、本題の治療をまとめていきましょう。以下に成人ITPの治療方針をまとめました。血小板数はおよそ15-40万/µLが正常値ですが、2万/µL以下になると、消化管出血や頭蓋内出血などの重篤な出血をきたすリスクを著しく上昇させることが報告されています。そのため、ITPの治療では、血小板数を正常値まで回復させることではなく、重篤な出血を予防し得る血小板数(およそ3万/µL以上)を維持することが目標になります。ITPの治療開始の基準は、血小板数2万/µL以下、または、血小板数2-3万/µLであっても重篤な出血症状をきたしている場合が治療開始の目安となります。
ITPの発症には免疫学的機序が関与しているため、治療はステロイドを用いてその免疫を抑制することが基本となります。また、ピロリ菌を除菌することで血小板数が回復することが知られていますので、治療開始にあたりピロリ菌感染の検査および除菌は重要になります。
1st Lineであるステロイド内服で治療を始めていきますが、血小板の増加を認めるまでに1週間程度はかかるとされています。ステロイド内服を開始して、7-10日程度が経過しても反応がない場合は、2nd Lineであるトロンボポエチン(TPO)受容体作動薬、リツキシマブ、脾摘のいずれかに速やかに変更します。
TPO受容体作動薬は、比較的新しい薬ですが、高い奏功率を有すること、リツキシマブや脾摘と違って免疫抑制の副作用がないことから、2nd Lineの治療の中でも有益な選択肢となっております。一方で、長期にわたる安全性や妊婦における安全性が確立されていないこと、血栓症のリスクが上昇することなどが問題となります。ITPは血栓傾向をきたす抗リン脂質抗体症候群(APS)との合併が多いと報告されており、血栓症のリスクが上昇することは軽視できない副作用と考えられています。
次に、ITPの緊急時に行う対応についてまとめていきたいと思います。傍大学の卒業試験問題がありますので、ぜひ一緒に考えてみてください。
答えは、eの大量ガンマグロブリン療法となります。月経出血が止まらないことや下肢の点状出血から出血傾向をきたしており、血小板数の低下(1,000/µL)、出血に伴う貧血、骨髄検査での幼弱巨核球の増加などからITPを疑うことは難しくないと思います。
本問では、39歳と活動性が高く、下肢の点状出血に加えて月経が止まらないという出血症状をきたしており、血小板数が1,000/µLであることからも、今後重篤な出血をきたすリスクが非常に高いと考えられます。このような生命を脅かすような出血時(またそのリスクが高い時)や手術時には、できるだけ早期に血小板数を回復させたいため、免疫グロブリン大量療法(IVig)、血小板輸血、ステロイド(mPSL)パルス(保険適応外)を用いた緊急時対応が必要となります。特に免疫グロブリン大量療法(IVig)は投与後、2-3日で血小板数が上昇してくるため、緊急時にまず行う対応として有用です。ITPでは、血小板輸血をしたとしても、抗血小板抗体により一過性の血小板上昇に終わることが多いですが、緊急時ではIVigと併用して用いられるそうです。
以上、傍大学の卒業試験問題を利用して、ITPの治療と緊急時の対応についてまとめてみました。私が経験を積ませていただく過程で、より良い内容に適宜アップデートしていこうと思っています。最後までお読みになっていただきありがとうございました。
<参考>
・柏木浩和ら. 成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド 2019改訂版. 臨床血液 60(2019):8 .
・神田善伸. 血液病レジデントマニュアル第3版. 医学書院.
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