今回は、血液疾患の1つである白血病について、”なぜ起きるのか”を中心にまとめていきたいと思います。患者様に実際に説明するように簡潔かつ明快に説明できたら良いなと思います。それでは始めていきましょう。
白血病とは
白血病は、赤血球や白血球などの造血細胞を産生する製造工場(骨髄といいます)において、未熟な白血球系の細胞が無秩序に増殖してしまい、全身に様々な悪影響をきたしてしまう疾患です。
症状としましては、
・発熱や倦怠感などの全身症状
・正常な血球が産生できなくなることによる易感染性、貧血症状、出血傾向(出血しやすくなる状態)
・白血病化した腫瘍細胞によって生じる多臓器不全
などが挙げられ、無治療だと致死的な経過を辿ってしまいます。
急性に症状をきたしてくるものや慢性の経過を辿るもの、どの白血球系の細胞が増殖していくか(骨髄球系かリンパ球系か)などに基づき、様々なタイプの白血病に分類されます。
白血病はなぜ起きるのか
白血病が発症する原因について、多くは造血幹細胞(造血細胞の子ども)において遺伝子に異常が生じることが関与していることが明らかになっています。遺伝子に異常が生じることで、造血幹細胞が白血病細胞として異常増殖してしまったり、治療が効きにくくなったりします。
少し専門的に述べると、遺伝子変異(本来とは違う塩基配列になる)、増幅(数が異常に増える)、染色体構造異常(新たな融合遺伝子が生じる、転座によりエンハンサーの影響をうける)、エピジェネティクス制御の異常(塩基配列の変化を伴わない遺伝子転写調整の異常)などが関連しているとされています。
例えば、下図に示しましたように、急性骨髄性白血病の発症とその多様性の獲得には、少なくとも2種類以上の遺伝子変異の蓄積が関与していることが明らかになっています。
年齢を重ねるごとに造血幹細胞の遺伝子に傷が入りやすくなりますが、通常それだけでは白血病は発症せず、多段階的に遺伝子に傷が入ってしまうと幹細胞が白血病細胞として増殖してしまうようになるイメージです。
しかし、ある特定の人物に、特定のタイミングで、なぜ上記のような遺伝子変異が生じてしまうのかにつきましては、基本的に明らかになっておりません。現在進行形で多くの研究がなされています。
原因遺伝子による治療戦力
原因遺伝子が特定され、遺伝子の働きを理解することができれば、その遺伝子の産物を標的にした薬物が開発されるようになります。
例を挙げますと、
・慢性骨髄性白血病において、BCR-ABLという遺伝子の異常によってチロシンキナーゼが活性化されることが判明し、チロシンキナーゼ阻害薬が開発されたことで治療が劇的に進歩しました。
・急性骨髄性白血病においても、存在すると予後が悪くなるとされるFLT3遺伝子変異に対するFLT3阻害薬が開発され、治療戦略に大きな進歩をもたらしました。
また、近年の遺伝子解析技術の進歩に伴い、同じタイプの白血病でも原因遺伝子に基づいたリスク分類を行い、分類に基づいた最適な治療を実施して行くことが、今後ますます求められていくでしょう。
以上、白血病はなぜ起きるのかについてまとめてみました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。今後も適宜アップデートいたします。
<参考文献>
・日本血液学会. 血液専門医テキスト. 改訂第3版.
・NCCN guideline Version 2.2022
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