血球減少症のアプローチ -汎血球減少のゴロから骨髄不全症まで-

 今回は、国試対策として血球減少症のアプローチ、特に汎血球減少のゴロから骨髄不全症をきたす骨髄異形成症候群(MDS: myelodysplastic syndromes)、再生不良性貧血(AA: aplastic anemia)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH: paroxysmal nocturnal hemoglobinuria)の鑑別と治療についてまで簡単にまとめていきます。国試対策ですので、各疾患の詳細な病態は割愛いたします。国試問題を効率よく解けるように整理していきたいと思います。それでは始めていきましょう。

血球減少をきたす疾患

 まずはじめに、成熟した血球(赤血球、白血球、血小板)の減少をきたす疾患を以下のようにまとめました。造血幹細胞の質的・量的な異常による骨髄不全症白血病や多発性骨髄腫などの腫瘍性疾患炎症性疾患や免疫性疾患などの非腫瘍性疾患に大別しました。

 上記の疾患を、病歴、既往歴、血液検査結果(特に、MCV網状赤血球数白血球分画血球形態)などの情報をもとに鑑別していきます。この際に、骨髄検査が必要かどうか、つまり血液内科医にコンサルする必要があるのかどうかを意識して整理するとイメージがしやすいと思います。また、国試では問題となりませんが、実際の臨床現場では、薬剤の副作用による血球減少、肝硬変、栄養不良、重症感染症なども少なくない(むしろ血液疾患以外の原因方が多いのでは?)ことも覚えておきましょう。

汎血球減少のゴロ

 赤血球、白血球、血小板の3系統の血球が減少した状態を汎血球減少といいます。汎血球減少をきたす疾患の覚え方をゴロにまとめましたので参考にしてください。問題を解く際や知識を披露する際に威力を発揮するゴロだと思います。

骨髄不全症とは

 今回は、血球減少をきたす疾患のうち骨髄不全症をきたす疾患を中心にまとめていきたいと思います。もちろん、骨髄不全症をきたす疾患の鑑別には、造血器腫瘍や炎症性疾患などを除外することが不可欠ですので、これらの疾患も整理しておきましょう。

 骨髄不全症とは、骨髄(血球の産生工場)における造血幹細胞の質的・量的異常により成熟血球が減少した状態をいいます。骨髄異形成症候群(以下MDS)、再生不良性貧血(以下AA)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(以下PNH)がその代表疾患で、上記のゴロにあったようにいずれも汎血球減少をきたし得ます。また、これらの疾患は、典型例を除いて臨床的・形態学的な特徴がオーバーラップしたり、相互移行したりすることがあるため、発症早期に診断づけることがしばしば困難となります。同一スペクトラムの疾患とも表現されます。

骨髄不全症の鑑別

以下には、国家試験において骨髄不全症をきたすMDS、AA、PNHを効率よく鑑別するための情報をまとめました。

簡単な疾患イメージとはなりますが、

MDS:骨髄で造血幹細胞の染色体に異常が生じることによって正常な成熟血球を作ることができなくなってしまう状態(無効造血

AA:骨髄で造血幹細胞が免疫細胞に攻撃されてしまい、造血幹細胞の数自体が減少してしまうことによって成熟血球の数も減少してしまう状態(低形成

PNH:骨髄で造血幹細胞の遺伝子に異常が生じることによって、血球細胞膜上に存在するはずの補体(免疫細胞を活性化させる”ふりかけ”のようなもの)を制御する蛋白が欠損してしまい、成熟血球が免疫細胞によって破壊されてしまう状態(血管内溶血
(補体制御蛋白がCD55とCD59、それらを血球細胞膜につなぎとめる蛋白がGPIアンカーです、PNHではどちらも障害されます)

骨髄不全症の治療

 骨髄不全症のうちMDS、AA、PNH治療の概略を『骨髄異形成症候群診療の参照ガイド 令和1年改訂版』、『再生不良性貧血診療の参照ガイド 令和1年改訂版』、『発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和1年改訂版』を参考にまとめました。

 治療に関しては、造血器腫瘍などと比較すると国家試験で問われることが少なく、出題された際には正答率が低くなっています。特にMDSとAAは、リスク分類や重症度分類によって治療方針が変わり、経過観察も正解選択肢となるため、解答には十分な理解が必要となります。私の経験則から、造血幹細胞移植が適応となるかどうか”、”有症状で輸血が必要かどうか”、を意識して整理すると解答がしやすくなると思います。治療の詳細は上記の参考文献をご参照ください。

確認問題

答 (102I-1)a, (108D-16)b, d

(102I-1) 髄外造血は、骨髄線維症や造血期腫瘍、癌の骨髄転移などでみられることで有名です。

(108D-16) MDSの予後を評価する指標には、国際予後スコアリングシステム(IPSS-R, IPSS)などが存在します。項目として、各血球数染色体異常骨髄中の芽球割合があげられます。MDSが進行すると血球数が減少しますし、予後不良となる染色体異常も存在します。また、芽球割合が増加して20%を超えてしまうと予後不良な白血病となってしまいます。

答 a, b, c

AAにおける典型的な脂肪髄の画像が提示されていました。

3日前から続く鼻出血、紫斑と点状出血とを認めることからも有症状であり、 Hb7.2g/dL 、血小板0.8万 (致死的な出血のリスクが高い)であることからも輸血を行う必要があります。少なくとも軽症〜中等症ではありませんので、治療は適宜輸血とCsA+ATG±EPAGが基本となります。EPAGはトロンボポエチン(TPO)受容体作動薬の1つですが、この問題の出題当時には保険適応となっていませんでした。今ではTPO受容体作動薬も正解になり得ますので覚えておきましょう。

答 e

非常に長い選択肢ですね。血尿や黄疸があり、貧血も進行しています。肝脾腫を認めないことからも血管内溶血が疑われます。溶血ですので、代償的な造血の亢進を反映して網赤血球は増加し、ハプトグロビンは低下します。血管内溶血といえばPNHを想起できるようにしましょう。PNHではフローサイトメトリを利用したGPIアンカー蛋白欠損血球の検出が診断に有用となります。

 球状赤血球は血管外溶血をきたす遺伝性球状赤血球でみられます。

まとめ

 以上、血球減少のアプローチ、特に汎血球減少のゴロからMDS、AA、PNHの鑑別と治療についてまとめてみました。私が経験を積ませていただく過程で、より最新の内容に適宜アップデートしていこうと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考>
・日本血液学会. 造血器腫瘍診療ガイドライン. 2018年版補訂版.
・骨髄異形成症候群診療の参照ガイド 令和1年改訂版
・再生不良性貧血診療の参照ガイド 令和1年改訂版
・発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和1年改訂版

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