出血傾向の鑑別 -原因を4つに分けて整理しよう-

  今回は医師国家試験対策(国試対策)として出血傾向の鑑別について知識を整理していきたいと思います。国試対策ですので、各種疾患の病態や治療法などの詳細については別の機会に記事にしていこうと考えています。血液内科領域でも勉強が後回しにされがちな分野(どの参考書や問題集でも末尾の章に記載されがち?)だと思いますが、非常に奥が深く臨床場重要な分野であることに間違いはありませんので、この機会に知識を整理していただけましたら幸いです。それでは、はじめていきましょう。

出血傾向とは

 出血傾向とは、簡単にいうと通常よりも出血しやく、止血困難な状態を意味します。軽い外傷でも血液が血管外に漏出してしまうことから認識されることが多いです。まず初めに出血傾向の原因について、大きく4つに分けて整理しましょう。出血傾向の原因は大きく分けて、血管壁の異常血小板の数や機能の異常凝固因子の数や機能の異常線溶系(血栓を溶かす機能)の異常に大別されます。以下に示しましたように、それぞれの異常をきたす代表疾患がありますが、抗がん剤や抗菌薬などの薬剤や、肝疾患やSLEなどの血液内科領域以外の疾患でもきたしうることも覚えておきましょう。

1次止血と2次止血

 出血傾向をきたす代表疾患について上記しますが、今回はその中でも特に頻出な血小板と凝固因子の異常についてまとめていきたいと思います。血管が何らかの原因で破れ、血液の血管外への漏出がおきた状況、いわゆる出血した状況をイメージしてみてください。漏出を止めるため、まず血小板が傷口に集まってきて固まります。この血小板による止血を1次止血といいます。次に、凝固因子が集まった血小板をまとめ、より強固に固めていきます。この凝固因子による止血を2次止血といいます。具体な例をあげますと、川の堤防が破壊され、決壊した状況で、まず運ばれてくる土嚢が血小板で、その土嚢に網をかけてコンクリートで固めるのが凝固因子というイメージでしょうか。

 血液検査では、血小板による1次止血は出血時間に、凝固因子による2次止血はPT・APTTに反映されます。血小板や凝固因子に異常(数や機能の低下)が生じた際に、出血傾向となり身体の様々な不具合をきたします。目に見える不具合としては、紫斑という指で押しても消えない出血班がみられることがあります。1次止血の異常では皮膚・粘膜下における点状出血、2次止血の異常では筋肉・関節内における大きな斑状出血がみられることが有名です。また、検査値では、1次止血の異常で出血時間の延長、2次止血の異常でPT・APTTの延長が起こることを覚えておきましょう。

 ここでは、2次止血における凝固のカスケード(流れ)についても簡単に復習しておきましょう。以下の凝固のカスケードを一度は目にした方が多いのではないでしょうか。

へまと君
へまと君

この図を見ると蕁麻疹が出ます。アナフィラキシーかもしれません。

 はい。⼆次⽌⾎の最終産物は(安定化)フィブリン(ⅩⅢ)です。共通系においてXaにより切断されたプロトロンビン(Ⅱ)がトロンビンとなり、このトロンビンがフィブリノーゲン(Ⅰ)のフィブリノペプチド を切断することで安定化フィブリンを作ります。この安定化フィブリンを作るための凝固のカスケードとして、まず血管が障害されると障害された血管内皮下組織において外因系が凝固のエンジンとしての役割を担い活性化されていきます。次に、異物接触面において内因系が凝固のアクセルとしての役割を担い活性化されていき、外因系と内因系がそれぞれ協調しあって共通系を効率良く動かしています。

 凝固因⼦のブレーキとしては、アンチトロンビン(フットブレーキ)やプロテイン C(エンジンブレーキ)などが存在しています。また、安定化フィブリンを分解するプラスミンが線溶系の中心的な役割を担っています。プラスミンによるフィブリン分解産物がFDPやD-dimerです。

 以上のことを踏まえまして、例えば、ヘパリンはトロンビンに拮抗するアンチトロンビンを活性化させることで抗凝固作用を発揮します。また、血液をサラサラにすることで有名なワルファリンは、ビタミンK依存性凝固因子(Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ 、Ⅱ)の合成を阻害することで抗凝固作用を発揮します。直接経口抗凝固薬であるDOACは、Xaやトロンビンの酵素活性を阻害することで有名ですね。

 まだまだ説明不足ですが、具体例とともに簡単に説明しました。苦手な方は何回も繰り返し確認することで少しずつ覚えていけば良いと個人的には思っていますが、皆様はどのように教えていただいたでしょうか。より詳しい説明は以下のおすすめのサイト『血液・呼吸器内科のお役立ち情報ブログ』に載っていると思いますのでご紹介いたします。明快で大変勉強になる記事ばかりです。

出血傾向の鑑別

 さて、本題の出血の傾向の鑑別に移っていきましょう。以下に示しましたように、0から3のStepを通してまとめていきたいと思います。

Step0 患者背景(年齢、性別、内服薬、家族歴など)

 まず忘れてはいけないのが患者背景の確認です。国家試験では、ほとんどがその疾患の持つ代表的な特徴で出題されますので、年齢、性別、内服歴、家族歴などの患者背景も非常に重要な情報です。(実臨床では薬剤による血球減少もしばしばみられますが、国試では滅多に出題されません)

 また、貧血の有無から造血器腫瘍や消化管出血などの緊急性が高い疾患を見逃さないことも大切です。汎血球減少が認められた場合の鑑別は、長くなりますので別の記事にまとめていきたいと思います。

Step1 血小板数は低下(出血時間は延長)しているか

  血小板低下を認めた際には、まず既往歴や肝脾腫などから肝疾患による血小板減少を除外しましょう。血小板低下のみであれば、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)や再生不良性貧血の初期などの疾患が疑われるため、Step3の骨髄検査の結果を確認しましょう。実際の臨床では、採血管内のEDTAによる血小板凝集(EDTA依存性血小板減少症)も必ず除外する必要があります。

 血小板減少をきたす疾患で有名なITPにつきましては、今回は詳細を割愛いたしますが、以下の記事に簡単にまとめましたので参考にしていただけますと幸いです。

 

 血小板減少に加えて、溶血所見(LD↑、K↑、AST↑、間接Bil↑、Hb↓など)を認めた場合は、Evans 症候群(AIHA+ITP)や、播種性血管内凝固(DIC)血栓性微小血管症(TMA)を想起しましょう。特に、破砕赤血球をみた際には、国試的にDIC、HUS、TTPに絞ることができますので覚えておきましょう。

 TMAはDICと症状(血小板減少+溶血+多臓器不全)が類似しており、DICと同様に早急な鑑別が必要とされる疾患です。頻度はDICの方が多いですが、常にTMAを念頭におくことが重要です。TMAは、DICよりも溶血所見が顕著とされ、精神神経症状を呈することもキーワードとなります。以下にまとめましたように、国試におけるDICとTMAの鑑別では、まずADAMTS13活性を確認すると効率が良いと思います。

Step2 PT・APTTは延長しているか 

 次に、PTとAPTTを確認しましょう。血小板減少時と同様に、まず肝疾患による凝固因子産生能低下を除外しましょう。出血傾向をきたす疾患で、特に先天性/後天性血友病、von Willebrand 病、ビタミンK欠乏症、DIC はPTとAPTTである程度絞れてしまいますので、以下のまとめを覚えておきましょう。

 特にAPTT単独延長をみた際には、先天性/後天性血友病、von Willebrand 病、抗リン脂質抗体症候群(APS)に絞れます。von Willebrand 病は、男性にしかおこらない先天性血友病とは異なり、常染色体優勢遺伝のため女性にも生じること、分娩時も止血困難をきたしうることを覚えておきましょう。後天性血友病は、高齢者に好発して致死率が高いため、凝固因子活性測定やクロスミキシングテストを行い、早急に治療に取り掛かることが重要です。
 APSでは、出血傾向をきたさず、むしろ血栓傾向をきたします。余談ですが、APTT延長は試験管内で測定に必要となるリン脂質が抗リン脂質抗体により阻害されてしまうことによって起こります。

Step3 他の血液検査結果や画像所見など

 ここまできたら国試問題レベルであれば大分絞れるようになった思います。適宜必要な情報を読み取って効率よく鑑別を進められるようにしましょう。

確認問題

・確認問題①

答 e

 血小板減少に加えて、溶血所見(LD↑、AST↑、Hb↓、尿酸↑など)がみられますのでDICとTMAを疑います。画像所見でも破砕赤血球を確認できます。また本症例では、呂律が回らないなどの神経症状や発熱、腎機能障害などがみられるため、鑑別のためにADAMTS13活性を測定します。一般的なTTPの治療は、血漿交換やステロイドなどを用います。膠原病などに続発した二次性TTPでは原病に対する治療を行ったり、先天性TTPでは新鮮凍結血漿(FFP)の輸注やADAMTS13製剤を使用したりします。TMAきたすTTPやHUSにも様々なタイプがありますが、国試を逸脱したdeepなお話になりますので割愛いたします。

・確認問題②

答 c

 国試レベルでPT単独延長をきたす疾患はビタミンK欠乏症PTとAPTT両方の延長をきたす疾患はDICとビタミンK欠乏症でした。ビタミンK依存性凝固因子は内因系に携わる凝固因子(Ⅸ)や共通系に携わる凝固因子(Ⅹ、Ⅱ)もありますが、まずは半減期が最も短いⅦを含む外因系が影響を受けると理解すると良いでしょう。

 ビタミンK欠乏の原因として、胆道閉塞抗菌薬による腸内細菌叢の破綻経口摂取不良や吸収不良による低栄養クマリン系抗凝固薬(ワルファリンなど)の使用などが挙げられます。おまけですが、ビタミンK欠乏の判断に、PIVKA-Ⅱ(protein induced by Vitamin K absence or antagonists-Ⅱ)の上昇を確認していた先生もいらっしゃいました(私の勤務している施設の外注先では測定を終了したそうです)。

・確認問題③

答 e

 APTTの単独延長から、先天性/後天性血友病、von Willebrand 病、抗リン脂質抗体症候群(APS)に絞れます。幼少期からのエピソードがない出血傾向をきたしていますので、後天性血友病が最も疑われます。先天性血友病Aで第Ⅷ因子、先天性血友病Bでは第Ⅸ因子の活性が低下していますが、後天性血友病では第Ⅷ因子に対するインヒビターが出現すること多いです。凝固因子活性測定に加えて、適宜クロスミキシングテストを行い、早急に免疫抑制療法やバイパス止血療法に取り掛かることが重要です。詳細は別の記事にまとめていきたいと思いますが、気になる方は各自調べてみてください。

まとめ

 以上、国家試験に出題される出血傾向の問題を効率良く解くための知識をまとめていきました。今回の記事を参考に、ぜひ少しでも出血傾向ついての苦手意識をなくしていただけましたら幸いです。最後までお読みになっていただき、ありがとうございました。

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