血球増加症のアプローチ -骨髄増殖性腫瘍の鑑別と治療-

 今回は、国試対策として血球増加症のアプローチ、特に骨髄増殖性腫瘍MPN: Myeloproliferative neoplasms)の鑑別と治療について簡単にまとめていきます。血液内科の分野でも後回しにされがちな分野だと思いますが、この機会に国試問題を効率良く解くための知識を整理しましょう。それでは始めていきましょう。

血球増加をきたす疾患

 まずはじめに、成熟した血球(赤血球、白血球、血小板)の増加をきたす疾患を以下のようにまとめました。白血球、赤血球、血小板のそれぞれの増加をきたす疾患で大別しました。特に、赤字の白血病骨髄増殖性腫瘍(慢性骨髄性白血病、真性多血症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症)は毎年のように出題されますので、この機会にぜひ整理しておきましょう。

 他にも、喫煙が好酸球増加をきたすことや慢性の鉄欠乏性貧血が血小板増加をきたすことなども、国試でテーマとなるかはさておき有名です。

骨髄増殖性腫瘍(MPN)とは

 今回は、血球増加をきたす疾患のうち、白血病についで出題される骨髄増殖性腫瘍(以下MPN)を重点的にまとめていきます。

 MPNとは、造血幹細胞レベルで骨髄系細胞(顆粒球、赤芽球、巨核球)の腫瘍性増殖をきたす疾患群のことをいいます。以下にまとめましたように、慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia; 以下CML)、真性多血症(polycythemia vera; 以下PV)、本態性血小板血症(essential thrombocythemia; 以下ET)、原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis; 以下PMF)が代表疾患で、その他にも慢性好酸球性白血病, 慢性好中球性白血病などが存在します。病態としましては、発症初期は分化能(成熟した血球になれる能力)を有する骨髄過形成を呈しますが、最終的に急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia; 以下AML)に移行し得ます。CMLはBCR-ABL遺伝子変異PV・ET・PMFはJAK2、CALR、MPL遺伝子変異などが腫瘍性増殖に主に関与していることが明らかになっています。それぞれの疾患において、どの血球が主に増加するかも合わせて覚えておきましょう。

MPNの特徴を簡単にまとめますと、
過形成骨髄(骨髄でたくさん血球を作っている)
分化成熟して形態学的な異常がない血球増殖(芽球などの未熟な形をした細胞は増えない)
・最終的には、AMLに移行し得る
・CML:BCR-ABL遺伝子変異、PV・ET・PMF:JAK2、CALR、MPL遺伝子変異などが関与

 上記の特徴に関連して、MPNと鑑別を要する疾患としては、形態学的な異常がある場合には骨髄異形成症候群(MDS)、芽球の増加がある場合にはAMLなどが疑われます。

MPNの鑑別

 以下に血球増加症の鑑別で重要な知識を整理しました。問題文に記載されている病歴、身体所見(脾腫など)、検査所見(白血球分画、生化学、凝固系など)、骨髄検査(フローサイトメトリー、遺伝子検査、染色体検査など)の情報を素早く読み取って効率よく鑑別していきましょう。第一に白血病を見逃さないことが重要です

MPNの治療

 今回はMPNの代表疾患の治療法について簡単にまとめました。

 PVの瀉血(循環障害の改善)& 低容量アスピリン(血栓予防)ETの低容量アスピリン(血栓予防)CMLのチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ)は国試頻出です。

 一方で、PVとETの高リスク群で使用するヒドロキシウレア(弱い抗がん剤)や再発難治例にそれぞれ使用するJAK2阻害薬(ルキソリチニブ)とアナグレリド、CMLに使用するチロシンキナーゼ阻害薬の種類のチョイスなどは、余裕があれば頭の片隅においておくと安心です。

確認問題

b, c
・主に赤血球増加(赤血球 760万、Hb 20.1g/dL、Ht 54%)とエリスロポエチン値の低下
・血栓症(下肢深部静脈血栓症)の既往
・顔面と口腔粘膜の紅潮や肝脾腫
・骨髄生検で赤芽球、顆粒球および巨核球の3血球系統の過形成
・骨髄細胞染色体分析で異常を認めず(CMLの否定)、JAK2遺伝子変異を認める
 以上の情報から、PVを疑うのはそこまで難しくないと思います。65歳という年齢かつ血栓症の既往があることからも、循環障害の改善と血栓予防を目的とした治療は必要となります。

答 e
・主に血小板増加(253万)で赤血球系は上昇していない
・血栓症(脳梗塞)の既往
・染色体は正常核型(CMLの否定)
・末梢血塗抹May-Giemsa染色標本と骨髄生検のH-E染色標本で芽球は認めず、巨核球の増加
 以上の情報から、ETが最も考えられます。

答 e
・肝脾腫による腹部膨満感
・胸骨右縁第2肋間(大動脈弁領域)を最強点とする収縮期駆出性雑音(貧血でみられる身体所見)
・Hb 7.9g/dL
・骨髄組織のHE 染色標本と鏡銀染色標本から骨髄の線維化を認める
 以上の情報から、PMFが最も考えられます。PMFでは骨髄の線維化により骨髄での正常造血ができなくなるため、脾臓などでの骨髄以外での造血(髄外造血)も行われるようになり、肝脾腫やそれによる腹部膨満感が主訴になりえることも特徴的です。さらに、貧血や末梢血での涙滴赤血球、赤芽球、骨髄芽球がみられることでも有名です。末梢血中に赤芽球、骨髄芽球がみられることを白赤芽球症といい、骨髄線維症に加えて癌の骨髄転移でもみられることで知られています。

 国試において、骨髄検査での鏡銀染色標本といえば、まずPMFを決め打ちできる情報ですので覚えておきましょう。

 赤血球連銭形成は多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症でみられる所見として有名です。

まとめ

 以上、血球増加症のアプローチ、特にPVやETなどの骨髄増殖性腫瘍の鑑別と治療についてまとめてみました。私が経験を積ませていただく過程で、より最新の内容に適宜アップデートしていこうと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考>
・日本血液学会. 造血器腫瘍診療ガイドライン. 2018年版補訂版.

コメント

タイトルとURLをコピーしました