頭の中にリンパ腫? 中枢神経原発悪性リンパ腫とは

 今回は、中枢神経原発悪性リンパ腫PCNSL: Primary Central Nervous System Lymphoma)についてまとめていきます。PCNSLの治療つきましては、傍大学の卒業試験問題を利用してイメージがつきやすいようにまとめましました。それでははじめていきましょう。


 PCNSLとは、近年増加傾向の診断時に他の臓器に病巣を認めない中枢神経に限局した悪性リンパ腫です。多くの施設では、脳外科、血液内科、腫瘍内科あたりが中心となってPCNSL診療を担当していると思われます。PCNSL診療ガイドラインに関しては、脳外科の先生方がメインの日本脳腫瘍学会が発行されています。また、私が実習させていただいた大学や協力病院では、脳外科にてPCNSLと診断されて、その後の治療や内科的な管理も含めて血液内科に転科となるケースをしばしば経験しました。個人的な疑問なのですが、皆様の大学や施設では、何科が中心となってPCNSLの診療を担っていますでしょうか。

 まずはじめに、日本脳腫瘍学会が発行している『中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)診療ガイドライン(改訂案)』におけるPCNSL診療フローチャートをもとに知識を整理してきたいと思います。

 上図に示しましたように、PCNSLの診療の流れを簡単にまとめますと、症状・病歴から画像診断を行い、手術による生検・病理診断を経て、PCNSLの治療開始となります。

 PCNSLの症状・病歴ですが、基本的には他の脳腫瘍と同様な症状となります。腫瘍の発生した部位に応じた神経症状や精神症状に加えて、頭蓋内圧更新による症状がみられます。病歴としましては、好発年齢のピークが60歳代となっていますので、中高年〜高齢の方が、例えば、手足に力が入らなくなったり、意識がぼんやりしたり、頭痛や吐き気を訴えたりするようになります。

 上記ような頭蓋内の病変を疑わせるような症状を認めた際には、MRICTを用いた画像検査を行います。大脳基底核や脳梁に好発し、境界明瞭、造影効果を認めることなどがPCNSLを疑うキーワードとなります。この際に、FDG-PETや骨髄検査なども利用して、中枢神経以外にも病変がないかを確認しておきましょう。

 画像所見でPCNSLを疑った際には、脳外科にて手術(定位的脳生検術)を行っていただきます。術中迅速病理診断や検体の病理診断によりPCNSLと診断された場合に、化学療法を中心とした治療の開始となります。PCNSLは、そのほとんどがB細胞由来のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)であり、免疫染色によりCD20陽性となることが組織診断の大きな決め手となります。

 PCNSL治療の特徴に、抗がん剤の中枢神経へ移行性を考慮する必要があること、非常に再発しやすいこと(半数以上は再発)、また、眼球内リンパ腫などの眼病変を併発しやすいことなどあります。そのため、治療は、R-CHOPや放射線単独治療のような一般的な悪性リンパ腫の治療を行うことは推奨されていません。中枢神経への移行性を考慮し、HD-MTXやR-MPVなどの大量MTX療法を基盤とした化学療法をまず寛解導入療法として実施します。その後、可能であれば放射線全脳照射を実施します。放射線全脳照射には遅発性中枢神経障害などの副作用がありますので、患者の年齢やADLなどを考慮して実施の有無を検討します。その他には、再発難治例でのBTK阻害薬(後述)や完全奏功例での自家造血幹細胞移植などがあります。

偉い先生
偉い先生

大量メトトレキサート療法を行う上で何か気を付けることはありますか?

へまと君
へまと君

メトトレキサートは葉酸拮抗薬で関節リウマチなどの膠原病に使われていたような…

 メトトレキサート(MTX)は、葉酸拮抗作用により細胞のDNA合成を阻害することで抗腫瘍効果や免疫抑制効果を発揮します。副作用として、肝機能障害、消化器症状、口内炎などがみられますが、重症例では、症状を伴う血球減少症が起きることがあります。一般的に、関節リウマチで用いられるMTXは6-8mg/週であるのに対し、PCNSLで用いられるのは1回に3.5g/m2であり、PCNSLでは1000倍以上多くの量のMTXを使用します。文字通り桁違いの量ですので、大量MTX療法では、MTXに阻害されない活性型葉酸として作用するホリナート(ロイコボリン®︎)を副作用予防に使用します。


 これまでの知識の整理として某大学の卒業試験問題に挑戦してみましょう。

 答えは、eの大量メトトレキサート療法となります。71歳の高齢男性、左上下肢の筋力低下、意識障害ありのエピソードから頭蓋内病変を疑います。頭部造影MRIの結果から、右前頭葉に腫瘍を認め、定位的脳生検術によりCD20陽性、つまりB細胞由来の腫瘍であることがわかりました。さらに、FDG-PETで脳以外に病変が認めらないことから、PCNSLが最も考えられます。

 治療法としては、まず寛解導入療法として大量メトトレキサート療法を実施するのでした。その後、放射線全脳照射、再発難治例にはBTK阻害薬、完全寛解例には自家造血幹細胞移植を行います。

 最後に、2020年に再発難治例のPCNSLに対して新しく承認されたBTK阻害薬についてまとめました。再発難治例の治療法に関しては、今後ますますの研究が期待される分野であると思いますので、注目していきたいですね。


 以上、傍大学の卒業試験問題を利用して、PCNSLついて症状から診断、治療まで知識を整理しました。私が経験を積ませていただく過程で、より良い内容に適宜アップデートしていこうと思っています。最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考文献>
・日本脳腫瘍学会. 中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)診療ガイドライン(改訂案). 2018
・神田善伸. 血液病レジデントマニュアル第3版. 医学書院

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