Oncology emergency -発熱性好中球減少症(FN)-

 Oncology emergency (がん診療において緊急な対応を要される状態)のうちの1つに発熱性好中球減少症(fevrile neutropenia; 以下FN)があります。血液内科を実習・研修した際の病棟管理で必ずといって良いほど経験しますので、FNについて学んだことを簡単にまとめていきたいと思います。

FNとは

 FNとは、①好中球数が 500/μL未満、または 1,000/μL 未満で48時間以内に 500/μL未満 に減少すると予測される状態で、かつ②腋窩温 37.5℃以上(口腔内温 38℃以上)の発熱を生じた場合と定義されています。

 上記の好中球数はあくまでも目安であり、好中球数に厳密な基準はありません。というのも、血液疾患では好中球の貪食能や殺菌能に異常があることが多く、好中球数に関わらず易感染性のことがあります。また、その他にも担がん患者は様々な要因(粘膜障害、腫瘍による閉塞など)により感染リスクが高くなっているため、個々の患者の状態や背景を考慮してFNに対する治療を検討する必要があります

 造血不全をきたす血液疾患(白血病、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血など)や化学療法中の骨髄抑制期(抗がん剤投与後おおよそ7日目以降)に起こりやすく、治療介入が遅れると死亡リスクが高くなるemergencyな有害事象です。固形癌・血液疾患ともに生じますが、もともと造血能が障害されていない固形癌では骨髄抑制期が短いため、造血不全をきたす血液疾患に頻発します。

 FN治療を開始する前に、FN患者の重症化リスク(入院適応)を評価するために、Multinational Association for Supportive Care in Cancer scoring system(MASCC スコア)などを評価することが推奨されています。しかし、若年の外来患者、かつ、無症状などの特殊な状況でない限りは低リスク(外来治療)とはならないため、基本的には入院適応と考えています。

FNの治療

 発熱の原因として、感染症に加えて腫瘍熱も考えられますが、まずは無治療だと致死的となってしまう感染症に対する加療を実施します。

 FNに限らず感染症の初期治療では、患者背景(誰に)感染臓器(どこに)原因微生物(何が)を最低限考慮する必要があります。以下に基本的な考え方をまとめてみました。

:担がん患者はそもそも易感染性の状態(皮膚バリア機能低下、細胞性免疫低下、液性免疫低下)であることが多く、好中球数減少も合間って治療開始の遅れや選択抗菌薬のミスによる死亡リスクがさらに高くなります。

:感染臓器を疑うような局所症状に乏しいことが多々あります。それでも全身を確認し、頭痛、咳嗽・喀痰、CV挿入部の発赤、腹痛・排便状況など諸々を確認します。

:皮膚バリア機能低下時(カンジダ、黄色ブドウ球菌などに注意)、好中球減少時(緑膿菌、アスペルギルスなどに注意)、細胞性免疫低下時、液性免疫低下時では感染しやすい微生物が異なります。

 しかし、一説では感染巣や原因微生物を同定できた患者は全体の 20~30%と報告されたように、最悪のシナリオをカバーした迅速な広域抗菌薬投与が必要となります。

 初期治療で最も注意してカバーする必要がある起炎菌は緑膿菌などのグラム陰性桿菌です(容易に敗血症性ショックをきたし得るため)。初期治療の抗菌薬選択では特に緑膿菌をカバーした抗菌薬選択が求められます。

 緑膿菌をカバーした広域抗菌薬では、以下の3つの抗菌薬のうちいずれかが頻用されます(投与方法はよく見る例です。適宜、escalateやde-escalateもします。)。

セフェピム(マキシピーム):2 g  12時間毎静注(8時間毎だと通常保険で切られます)
タゾバクタム・ピペラシリン(ゾシン):4.5 g  6-8時間毎静注
メロペネム(メロペン):1 g 8時間毎静注 

【カバーの広さ】セフェピム < タゾバクタム・ピペラシリン < メロペネム

 上記の中ではセフェピムが最もカバー範囲が狭い抗菌薬ですので、抗菌薬適正使用の観点で頻用されます。タゾバクタム・ピペラシリンは緑膿菌カバーに加えて嫌気性菌に対するカバーもあります。メロペンはさらにESBLやAmpCなどの耐性菌もカバーしています。

 もちろん抗菌薬の投与前、変更前には血液培養を2セットやその他の培養検査を採取することを忘れないようにしましょう。

(学生の頃は知りませんでしたが、発熱時の指示簿に記載しておくことで、看護師さんが迅速に血培採取してくださります)

 上記の抗菌薬を5日間程度使用しても、解熱が得られないようであれば、上記抗菌薬でカバーできないような微生物(真菌やMRSA)をカバーする必要があります。

 抗真菌薬(ミカファンギン、アムホテリシンなど)や抗MRSA薬(バンコマイシン、ダプトマイシンなど)を追加していきます。さらに奥が深くなりますので、別の機会にまとめていきたいと思います。


以上、最後までお読みいただき、ありがとうございました。また適宜アップデートいたします。

<参考文献>
・日本臨床腫瘍学会. 発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン
・Freifeld AG, Bow EJ, Sepkowitz KA, et al:Clinical practice guideline for the use of antimicrobial agents in neutropenic patients with cancer:2010 update by The Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis 2011;52:e56–e93
・倉井華子. がん患者の感染症診療マニュアル. 南山堂
・神田善伸. 血液病レジデントマニュアル第3版. 医学書院

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