子曰く、低Na血症は内科のアイデンティ

私が学生の頃、ローテートしていた診療科の指導医の先生にこのように言われました。
低Na血症は内科のアイデンティティだからね」と、
当時は正直意味が分かりませんでしたが、実際に働いてみると、低Na血症がみられて適切な介入を必要とする患者さんは確かに少なくありませんでした。

低Na血症の詳細な内容は、電解質の教科書や研修医向けの人気参考書に必ず記載されていますので、今回は実際に経験して学んだことを中心に簡単にまとめていきたいと思います。

そもそも低Na血症とは

・血清Na < 136 mEq/L の状態
・入院患者生じる最多の電解質異常
・無症状から倦怠感、めまい、意識障害まで様々な症状

低Na血症の分類

まず低Na血症の原因と考えましょう
血漿浸透圧から大きく3つに大別されます。

高浸透圧性低Na血症  :高血糖、マンニトール
血漿浸透圧正常低Na血症 (偽性低Na血症):高TG血症、高グロブリン血症など
低浸透圧性低Na血症:後述

この中で、低浸透圧性のものが低Na血症としての対応が必要となります
低浸透圧性低Na血症では、水中毒や摂取不足をまず除外した後、細胞外液量でさらに分類されます。

細胞外液増加:心不全、肝不全、腎不全、ネフローゼ症候群など
細胞外液正常:SIADH、甲状腺機能低下症、副腎不全など
細胞外液低下:腎外喪失(嘔吐、下痢、熱傷)、MRHE、CSW、利尿薬など  

ここまでで、低Na血症をみたら、
まず、病歴、既往歴、薬剤歴、血漿浸透圧などから、高浸透圧性、偽性、低浸透圧性の鑑別をします。

次に、低浸透圧性であった場合、身体診察で細胞外液量の評価(浮腫、口腔内乾燥、皮膚ツルゴールなど)を行って詳細な鑑別をします。甲状腺機能低下症、副腎不全を考慮した血液検査、尿中排泄Na量も考慮して総合的に判断します。

低浸透圧性低Na血症の治療

細胞外液量の評価ができた際には、急性の経過で有症状であることを確認して治療に移ります。
基本は原疾患の治療に加え、以下の通りです。

細胞外液増加:水とNa制限
細胞外液正常:水制限、Na付加
細胞外液低下:補液(Na付加)

治療の際には、急激にNaを上昇させると神経が不可逆的な脱髄をきたしますので注意します(1日でNaを10mEq以上ガンガン上昇させるような行為はNGです)。

また血清Na+Kと尿中Na+Kを比較することで、治療経過で体内の自由水が排泄できているか(尿を水で薄められるか)を推測する方法もよく耳にします。簡単にまとめると以下のようになりますが、病態評価に役立ちましたのでぜひ詳しく調べてみてください。
例)
血清Na+K>尿中Na+K→自由水排泄可能→低Na血症改善傾向
血清Na+K<尿中Na+K→自由水排泄付加→積極的な治療を考慮

高齢者の低Na血症とその治療

上記のようにまとめてみたものの、実際の高齢の患者さんでは、複数の合併症や既往持ち、細胞外液量の評価が困難(そもそも脱水ぎみ)などが理由で鑑別が困難となる場合が少なくありません

それぞれの病態は割愛しますが、特に細胞外液正常のバソプレシン不適合分泌症候群(Syndrome of Inappropriate Secretion of ADH; SIADH)と細胞外液低下のCerebral Salt Wasting(CSW)、鉱質コルチコイド反応性低Na血症(Mineralocorticoid Responsive Hyponatremia of Elderly; MRHE)しか可能性が考えられなくなった際の鑑別は非常に困難です。

SIADHとするなら、水制限に加えて、難治例でV2受容体拮抗薬であるトルバプタン(サムスカ)が適応となり、一方、MRHEとするなら、水制限は脱水が悪化するため危険であり、補液の上で人工鉱質コルチコイドであるフロリネフの適応となります。

明らかな原因が疑われるのであれば、SIADHを疑って水制限とNa付加を行う。この際もMRHEやCSWなどの可能性も考慮して血圧の変動には注意する。それでも無効なら、難治性SIADHとしてサムスカを考慮する。しかし、サムスカは強力な利尿薬で、脱水かつ急激なNa上昇をきたし得ますので、使いなれている先生でないと積極的に使いにくいと思います。場合によっては、MRHEやCSWとして水制限解除に加え、難治例でフロリネフを内服させて血清Naの推移を確認するといった方針が無難になるのでしょうか。腎臓内科の先生にもコンサルをかけることができる状況ですと心強いですよね。

いずれにせよ、Naと水の摂取量、尿中排泄Na・K濃度なども考慮して血清Na濃度の推移を注意深く観察し、適切に治療を調整していくことが重要だと経験しました。

以上、最後までお読みいただき、ありがとうございました。また適宜アップデートいたします。

<参考書籍>
・門川俊明. 電解質輸液塾. 中外医学社.
・柴垣有吾. より理解を深める! 体液電解質異常と輸液. 改定第3版. 中外医学社.

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